「ジン」は独特の香りを持つスピリッツで、「ジントニック」や「マティーニ」といったカクテルのベースとしても有名なお酒です。
そんなジンについて、「何が原料なのだろう?」「ウォッカや焼酎と何が違うのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。
ジンとは、穀物が原料の蒸留酒に、ジュニパーベリーを含む香草や薬草といったボタニカルで風味付けしたお酒のことです。
ボタニカルで風味付けする点が、ウォッカや焼酎と違うポイントです。
本記事では、ジンの原料やボタニカル、他のお酒との違いをわかりやすく解説します。
ジンがどのようなお酒か知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

- 都内オーセンティックバーの元バーテンダー
- ウイスキーエキスパート所持
ジンやウイスキーを中心に、これまで300種類以上のお酒を飲んできました。実体験をもとに、「本当に美味しい」と思ったお酒を紹介します。
ジンとは

ジンはアルコール度数40~50%ほどのお酒で、「ウォッカ」「テキーラ」「ラム」と並ぶ、世界4大スピリッツのひとつです。
「ジンの語源」と、ジンが分類される「スピリッツ」について解説します。
ジンの語源は「ジュニパーベリー」
ジンの語源は、ジン造りに欠かせない「ジュニパーベリー」に由来します。
「ジュニパーベリー」はオランダ語で「イエネーフェル」といい、世界で初めて製造されたジンは「イエネーフェル」と呼ばれました。
オランダで生まれた「イエネーフェル」は、やがてイギリスに渡り「ジュネヴァ」と呼ばれ、それが短縮されて「ジン」となったのです。

イエネーフェル(Jenever)、ジュネヴァ(Geneva)、ジン(Gin)。
いずれもジュニパーベリー(ねずの実)が語源です!
ジンは蒸留酒(スピリッツ)の一種
ジンは蒸留酒(スピリッツ)の一種で、蒸留酒とはお酒の製造方法による分類です。
お酒の製造方法には、「蒸留酒」を含む3種があります。
- 醸造酒
- 蒸留酒
- 混成酒
3種類のお酒に関して、簡単に解説します。
醸造酒
世界で初めに誕生したお酒が醸造酒で、果実や穀類を発酵させて作ったお酒です。
歴史は非常に古く、米や蜂蜜、果実で造られた醸造酒の成分が紀元前7000年頃の中国の遺跡から出土しています。
ワインやビールの誕生は紀元前5000年から3000年頃で、交易で世界に広まり、そこから多種多様な醸造酒が生まれました。
原料と代表的なお酒を紹介します。
原料 | 代表的なお酒 |
---|---|
果実 | ワイン(ブドウ)、シードル(リンゴ) |
穀類 | ビール(大麦等)、清酒(米) |
ハチミツ | ミード |
蒸留酒
発酵によって造られた醸造酒を蒸留したものが蒸留酒で「スピリッツ」ともいわれます。



醸造酒よりもアルコール分が高く、「ハードリカー」と呼ばれることもありますね。
「蒸留」とは高熱で液体を気化させてアルコールを採取する技術で、蒸留技術は10世紀から11世紀頃に生まれました。
スピリッツはカクテルベースとしても必要不可欠なお酒で、現在ではウオッカ、ラム、テキーラ、ブランデーなどが世界各地で造られています。
原料と代表的なお酒を紹介します。
原料 | 代表的なお酒 |
---|---|
果実 | ブランデー(ブドウ)、キルシュワッサー(サクランボ) |
穀類 | ジン、ウォッカ(穀類、イモ類)、アクアビット(穀類、イモ類)、ウイスキー(大麦、穀類)、焼酎(米、蕎麦、イモ等) |
サトウキビ | ラム |
リュウゼツラン | メスカル(※テキーラはメスカルの一種) |
混成酒
醸造酒と蒸留酒を原料とし、果実やハーブ、香辛料を加えて風味づけしたお酒が混成酒です。
「リキュール」ともいい、加える材料によってさまざまな種類があります。
原料と代表的なお酒を紹介します。
原料 | 代表的なお酒 |
---|---|
果実 | スロー・ジン、カシス、キュラソー |
香草・薬草 | シャルトリューズ、ベルモット |
種子・核 | アマレット、カカオリキュール、コーヒーリキュール |
タマゴ | アドヴォカード |
ジンの原料


ジンは、ベースの蒸留酒(スピリッツ)にボタニカルの風味を加えて造られます。
「スピリッツの原料」と「ボタニカルの種類」に分けて解説します。
スピリッツの原料
ジンの製造に使用されるスピリッツは、蒸留所ごとに原料が違います。
主に使用されるのは、以下の穀物や果実です。
- 大麦
- 小麦
- ライ麦
- トウモロコシ
- ブドウ
- 米
ジンは後からボタニカルで風味づけされるので、ベースとなるスピリッツには風味が強くない穀物を原料にするのが一般的です。
しかし、近年ではブドウや米を使い、スピリッツに風味を持たせて製造するジンも増えています。
ボタニカルの種類


「ボタニカル」とはジンの蒸留過程で香りづけに使用される植物のことで、「ジュニパーベリー」は、必ずジンに使用されています。
ジンの味に大きな影響を与えるボタニカルには多くの種類があり、主に以下の3種に分類できます。
- スパイス系
- シトラス系
- 花/ハーブ系
ボタニカルの香りと特徴を、分類ごとに紹介します。
スパイス系
植物の実、種(シード)、根(ルート)が使用されいているのが、スパイス系のボタニカルです。
スパイス系のボタニカルには、下表のような種類があります。
名前 | 詳細 | 部分 | 風味・特徴 |
---|---|---|---|
ジュニパーベリー | ヒノキ科の針葉樹、別名セイヨウネズ | 実 | 針葉樹特有の爽やかさ、ウッディ、ジンの核となる香り |
コリアンダー | セリ科の一年草で、別名パクチー(タイ語) | 種 | レモンの香り、スパイシー |
カルダモン | ショウガ科の多年草 | 種 | 清涼感のある柑橘系の香りスパイシー |
リコリス | 甘草の一種でマメ科の多年草、別名スペインカンゾウ | 根 | 強い甘みとアニスのようなフレーバー、木のような香り、柔らかさと丸み |
オリス | アヤメ科の多年草 | 根 | 非常に高価、3年ほど乾燥させるとスミレの香り、森林のフレーバー、他のボタニカルを取りまとめるジンのバランサー |
シナモン | クスノキ科の常緑樹 | 樹皮 | 優しく甘い香り |
カッシア | クスノキ科の常緑樹 | 樹皮 | シナモンと似ているがオイル分が多くて甘さはない、厚くて固い、薬のような苦味、スパイシーな香り |
アンジェリカ | セリ科の低木 | 根 | ジュニパーベリーの香りを引き立て、他のボタニカルの香りをつなぐバランサー |
種 | ホップのような軽い花の香り | ||
キャラウエイ | セリ科の二年草で、別名ヒメウイキョウ、カラム | 種 | 三日月型の種子、ほんのり甘い香り |
ナツメグ | ニクズクという常緑樹の種子から作られる香辛料 | 種 | わずかに甘い、コショウ |
ジンジャー | ショウガ科の多年草で、和名は生姜 | 根茎 | 辛味、スパイシーなフレーバー |
シトラス系


シトラス系とは柑橘系の総称で、ボタニカルに使用するのは油分を含んだ皮の外側(ピール)です。
シトラス系は下表のような種類があります。
名前 | 風味 |
---|---|
オレンジ | コクや華やかさ、フルーティーで甘い香り |
レモン | きりっとした苦味、ジュニパーを引き立たせる |
ライム | レモンよりも清涼感の強いシトラスフレーバー |
グレープフルーツ | 軽やかなシトラスフレーバー、スパイシーさ |
ユズ | 独特の甘みをもつ、爽やかなシトラスフレーバー |
花/ハーブ系


フローラルなフレーバーを持つ花やハーブ類もボタニカルとして使用され、近年ではバラや前茶など新しいボタニカルも登場しています。
花やハーブ系のボタニカルには、下表のような種類があります。
名前 | 科 | 風味 | ||
---|---|---|---|---|
ラベンダー | シソ科 | 華やかで柔らかい香り、フローラル | ||
タイム | シソ科 | ほろ苦さ、清涼感のある、優しい香り | ||
カモミール | キク科 | リンゴに似た、甘い香り | ||
エルダーフラワー | レンプクソウ科 | 華やかでフルーティな香り | ||
ブドウの花 | ブドウ科 | 甘いブドウの花の香り、やさしく澄んだ香り | ||
メドウスイート | バラ科 | 干し草、ハチミツ、野草などの複雑な香り花からはアスピリンが採取 | ||
バラ | バラ科 | 華やか、甘くゴージャスな香り | ||
前茶(チャノキの葉) | ツバキ科 | まろやかな香り、後味にタンニンのビターな風味 |
製造の流れ
ジンの製造の大まかな流れは、以下のとおりです。
- 原料をアルコール発酵させてモロミを造る
- モロミを蒸留してニュートラルスピリッツを製造
- スピリッツにボタニカルを加えて再留
- 加水してアルコール度数を40%前後に調整
- ボトリングして販売
クラフトジンを製造している蒸留所では、一部過程が違うところもあります。
世界にある3種類のジン


ここからは、世界にある以下の3種類のジンを紹介します。
- ドライジン(ブリティッシュジン)
- シュタインヘーガー
- ジュネヴァ
この3種類のジンは、ジュニパーベリーをメインに製造されていて、それぞれ異なる風味を持っています。
産地と味わい、代表銘柄をを下表にまとめました。
名前 | ドライジン | シュタインヘーガー | ジュネヴァ |
国 | イギリス | ドイツ | オランダ ベルギー |
味 | 辛口でスパイシー | ハーブの風味が強く、やや甘口 | マイルドでフルーティー |
銘柄 | ビーフィーター | シュリヒテ | ボルス |
3種のジンのうち日本では「ドライジン」がメジャーで、カクテルベースとなるジンも「ドライジン」が一般的です。



「ジン」といえば、「ドライジン」を指す場合が多いですね。
「ドライジン」は3種類に分けられる


前章では、世界の3種類のジンを説明しました。
その中で最もなじみ深い「ドライジン」の分類を紹介します。
まず、ドライジンには以下の3つの要件があります。
- 農作物由来のアルコールである
- 香りづけの主な原料がジュニパーベリーである
- 瓶詰時のアルコール度数が37.5%以上(※アメリカは40%以上)である
要件を満たしたジンは、2008年発布のEU法により、次の3つのカテゴリーに分類されます。
- Gin(ジン)
- Distilled Gin(蒸留ジン)
- London Gin (ロンドン ジン)
Gin(ジン)
ドライジンの3つの基本条件を満たせば、Gin(ジン)と名乗れます。
ジュニパーベリーの香りづけの方法は、浸漬でもいいですし、別の手法でも構いません。
着色や加糖も可能です。
また、Distilled Gin(蒸留ジン) やLondon Gin (ロンドン ジン)には再蒸留という工程が必要ですが、Gin(ジン)は再蒸留は不要です。
Distilled Gin (蒸留ジン)
ドライジンの3つの基本条件を満たした上で、度数96%以上の高濃度スピリッツにボタニカルを浸漬して再蒸留するのがDistilled Gin (蒸留ジン)です。
「ボタニカルと再蒸留」する点が、Distilled Gin (蒸留ジン)のポイントです。
ボタニカルごとに別々に再蒸留して独自の配合でブレンドできるため、造り手の個性を出しやすいジンです。
London Gin (ロンドン ジン)
London Gin (ロンドン ジン)は、ロンドン ドライジンといわれることもあります。
製造工程はDistilled Gin (蒸留ジン)と同じですが、より純度の高い高品質なエチルアルコールを使用することが定められています。
使用するボタニカルは天然物に限定されており、再蒸留後の香料の使用や着色は認められていません。
ボタニカル別に再蒸留したスピリッツをブレンドすることもできず、ロンドン ジンは3種のジンの中で規定が一番厳格です。
なお、「ロンドン」は産地ではなく品質を表しているため、たとえロンドンで生産されていなくても、要件を満たせば「London Gin」と表記できます。
一覧表で見る「Gin」「Distilled Gin」「London Gin」の違い
「Gin(ジン)」「Distilled Gin(蒸留ジン)」「London Gin(ロンドン ジン)」の製法の違いを表にまとめました。
ジン | 蒸留ジン | ロンドン ジン | |
初留後の香りづけ | (方法に規定なし) | (ボタニカルを浸漬) | (ボタニカルを浸漬) |
初留後の着色 | |||
初留後の加糖 | |||
再蒸留後のアルコール度数 | (※再蒸留は不要) | 規定なし | 70%以上 |
再蒸留後の香りづけ | |||
再蒸留後の着色 | |||
再蒸留後の加糖 | (1L/0.1gまで) | ||
ボタニカル別の再蒸留 |
ジンQ&A





ジンに関する素朴な疑問を解消するQ&Aコーナーです!
ジンは何の味?
ジュニパーベリーを核とするボタニカルの香味で、ハーブや木のウッディな味と香りが特徴です。
ジンのアルコール度数は?
ジンの多くは、アルコール度数40%前後です。
ジンとウォッカでは、どちらのアルコール度数が高い?
ジンもウォッカも一般的なアルコール度数は40%前後なので、どちららも度数の強さは同じくらいです。
ただ、ウォッカにはアルコール度数96%の「スピリタス」といった高度数の銘柄があります。
ジンには何が入っている?
原酒は大麦やライ麦などから造られていて、ジュニパーベリーをメインとするボタニカル成分が加えられています。
ジンの発祥は?
オランダ発祥で、蒸留酒の「イエネーフェル」がジンの起源といわれています。
ジンの有名国は?
イギリス、スコットランド、オランダ、ベルギーが有名です。
近年ではドイツやアメリカ、日本やスペインといったさまざまな国で造られています。
「クラフトジン」や「プレミアムジン」は、普通のジンと何が違う?
「クラフト」や「プレミアム」はブランディングに使用される用語で、厳密な定義はありません。
「クラフト」は小規模なディスティラリーの職人が手間を惜しまず手づくりする製品を指す用語で、「プレミアム」は材料や製法、ボトルが高品質・高価な製品のことで、ラグジュアリーなイメージを演出する用語です。
まとめ
ジンはジュニパーベリーで香りづけされている無色透明の蒸留酒です。
ジンの香りはジュニパーベリーによるもので、他にも多くのボタニカルが使用されており、世界各国に個性あふれるジンがあります。
原料のボタニカルをイメージしつつ、ぜひ多くの種類のジンを味わってみてください。