ジンはスパイシーでドライな独特の香りを持つスピリッツです。
そのユニークな風味の素となっているのが、ジュニパーベリーをはじめとする様々な「ボタニカル」から抽出されたエッセンス。
ボタニカルとは植物の根や樹皮、種子や果実のことで、世界各地のジンメーカーはボタニカルを絶妙なバランスで配合し、ジンに個性を与えています。
世界各国で、さまざまな種類のボタニカルが使用されています!
伝統的なジンによく使用されるコリアンダーやレモンピールの他、近年ではキュウリや日本茶など珍しいボタニカルを使ったジンも登場していますね。
そんなジンの多彩なボタニカルを、今回は画像つきで解説していきます。
植物の種類やジンにもたらす風味を解説しますので、ジンをより深く知りたい方はぜひお付き合いください。
ジンのボタニカルとは
「ボタニカル」とは、ジンの香りづけに使用されるハーブやスパイスといった植物の総称です。
ボタニカルのひとつである「ジュニパーベリー」はどのジンにも必ず使用されており、ジン特有のウッディな味わいや香りの素となっています。
ジンづくりにおいて、ジュニパーベリー以外のボタニカルに関する制約はありません。
そのため、3種類のボタニカルしか使用していない橘花ジンや、47種類ものボタニカルを使用しているモンキー 47など、世界にはさまざまなジンがあります。
ジンの味わいを左右するボタニカルの配合は、全て作り手に委ねられているのです。
ボタニカルの「ジュニパーベリー」はジンの語源
ジンに欠かせないボタニカルである「ジュニパーベリー」は、ジンの語源となっています。
ジュニパーとは背の低い針葉樹で、オランダ語で「イエネーフェル」といいます。
実には薬効があり、ジュニパーベリーを使った薬用酒もイエネーフェルと呼ばれていました。
薬用酒はやがて嗜好品となり、オランダからイギリスに渡った際に「ジュネヴァ」と呼ばれ、短縮されて「ジン」となったのです。
ジンの歴史を詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
【スパイス系】ジンのボタニカルの種類
スパイス系のボタニカルとして使用されるのは、主に植物の実や種(シード)、根(ルート)の部分です。
スパイス系のボタニカルには、次のような種類があります。
- ジュニパーベリー
- コリアンダー
- カルダモン
- リコリス
- オリス
- シナモン
- カッシア
- アンジェリカ
- ナツメグ
- ジンジャー
- アーモント
- キャラウェイ
- クベブ
ジュニパーベリー
種類 | ヒノキ科の針葉樹 |
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使用部分 | 実 |
香味 | ウッディ |
ジュニパーベリーはジンに欠かせないボタニカルで、ジュニパーベリーを使用しなければ「ジン」とは名乗れません。
別名、セイヨウネズ(西洋杜松)といわれるジュニパーベリーは、イタリアやマケドニア、その他多くの地域で生育されています。
成長は遅く、花をが咲いて実を付けるまでには10年かかり、球状の実が付いても熟すまでにはさらに12~18カ月ほどかかります。
ジンをつくる際には乾燥させたジュニパーベリーを使用することが多く、松のようなウッディな香り・針葉樹特有のさわやかな香りを与えてくれるボタニカルです。
コリアンダー
種類 | セリ科の一年草 |
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使用部分 | 種 |
香味 | レモンの香り、スパイシーな風味 |
コリアンダーはパクチー(タイ語)と同じ植物で、葉や茎の部分に独特の強い香りがあります。
コリアンダーとは、パクチーのこと。
私は大好きですが、苦手な方は多いですね。
ジンに使用されるのはおもに乾燥させた種で、葉とは風味が大きく異なり、レモンのような香りがします。
たとえレモンやオレンジのボタニカルが入っていないジンでも、コリアンダーを入れるとレモンを思わせる柑橘系の香りが漂います。
そんなコリアンダーの種はさまざまなジンに使用されており、ジュニパーベリーに次いでジンに使用される主要ボタニカルの一つです。
カルダモン
種類 | ショウガ科の多年草 |
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使用部分 | 種 |
香味 | 清涼感のある華やかなアロマ、 スパイシー |
主にグアテマラで栽培されているカルダモンは非常に高価なボタニカルで、少量で強い風味が得られます。
スパイシーな香りや華やかなアロマ、清涼感のあるハーブ香が特徴で、カルダモンはアジア料理にもよく使用されていますね。
緑色と黒色の2種類のカルダモンがあり、緑色のカルダモンはクセのない柑橘系の香りで、黒色のカルダモンは松のような針葉樹の香りがします。
リコリス
種類 | マメ科の多年草 |
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使用部分 | 根 |
香味 | アニスフレーバー、木の香り |
リコリスは甘草の一種で別名スペインカンゾウといい、強い甘みとアニスのようなフレーバー、木の香り、柔らかさと丸みが特徴です。
根の部分は特に強い甘みとアニスフレーバーがあり、根の部分を粉にして使用することでジンに柔らかさと甘みを加えられます。
ビーフィーターはリコリスをボタニカルとして使用しており、柔らかい口当たりはリコリス由来といえるでしょう。
オリス
種類 | アヤメ科の多年草 |
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使用部分 | 根 |
香味 | スミレの香り、木々のフレーバー |
オリスは生産量の少ない高価なスパイスで、根の部分がジンのボタニカルとして使用されます。
収穫後は3年~5年ほど乾燥させる必要があり、乾燥させるとスミレのようなフローラルな香りがします。
オリスはジンに花の香りと木々の連なる森林のフレーバーを付与し、さらに他のボタニカルを取りまとめるバランサーの役割を担うのが大きな特徴です。
シナモン
種類 | クスノキ科の常緑樹 |
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使用部分 | 樹皮 |
香味 | 甘い香り |
シナモンは粉末で使用され、ジンに甘い香りを付与します。
香りが強いため、他のボタニカルの個性を消さないように少量で使用され、ヘイマンズといった多くのロンドンライジンに用いられています。
カッシア
種類 | クスノキ科の常緑樹 |
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使用部分 | 樹皮 |
香味 | 苦い味、スパイシーな香り |
カッシアは内樹皮の部分で、香り高いオイルを多く含んでいます。
シナモンとよく似ていますが、カッシアはシナモンよりも厚くて固く、暗い色で甘みはありません。
スパイシーな香りと、薬のような苦い味が特徴のボタニカルです。
アンジェリカ
種類 | セリ科の低木 |
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使用部分 | 根(ルート) 種(シード) |
香味 | 根:ホップに似た軽い花の香り 種:ジュニパーベリーの香りを引き立てる |
アンジェリカは根、種それぞれに香味成分を持つセリ科の植物で、乾燥させて用いられます。
ジンによく使用されるのは根の部分で、ジンをドライに仕上げ、ジュニパーベリーの香りを引き立てます。
他のボタニカルの香りをつなぎ合わせる役割も果たすため、複数のボタニカルを使用するジンによく使用されています。
アンジェリカの種の部分は、ホップに似た花のような香りが特徴です。
ナツメグ
種類 | ニクズク(常緑樹) |
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使用部分 | 種 |
香味 | やや甘くコショウのような風味 |
ナツメグはニクズクという常緑樹の種子から作られる香辛料で、シナモン、コショウ、クローブと並び「世界4大スパイス」といわれています。
コショウのようなスパイシーな風味と少しの甘さがあり、伝統的なクラシックジンによく使用されているボタニカルです。
ジンジャー(生姜)
種類 | ショウガ科の多年草 |
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使用部分 | 根茎 |
香味 | スパイシー |
ジンジャー(生姜)はショウガ科の多年草で、辛味から来るピリリとしたスパイシーなフレーバーが特徴です。
近年では、国内のクラフトジンに用いられることがあります。
アーモンド
種類 | バラ科サクラ属の落葉高木 |
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使用部分 | 種子 |
香味 | 甘い香りから苦い香りまで幅がある |
ジンによく使用されるのはビターアーモンドで、焼き菓子のような甘い香りからビターな香りまで、多様な香りがジンに付与されます。
スイートアーモンドを使用すれば、ナッティな香りや優しい口当たりがジンに加わるでしょう。
キャラウェイ(キャロウェイ)
種類 | セリ科ヒメウイキョウ属の二年草 |
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使用部分 | 種 |
香味 | スパイシーで抜けるような香り、 ほんのりとした甘さ |
キャロウェイの種は三日月型で、すっと抜けるような香りを持つボタニカルです。
ヘンドリックスやブードルスに使用されており、ジンの他にもパンやチーズ、リキュールにも用いられているスパイスです。
なお、キャラェイと見た目がよく似たスパイスにフェンネルがあり、こちらはウイキョウという和名の別の植物です。
クベブ(クベバ)
種類 | コショウ科 |
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使用部分 | 実 |
香味 | 黒コショウのスパイシーな香り |
クベブはインドネシアに生息するコショウの一種で、ジャワコショウという名前で呼ばれることもある植物です。
黒コショウのような力強くスパイシーな香りで、ボンベイ・サファイアなどに用いられています。
【花/ハーブ系】ジンのボタニカルの種類
フローラルなフレーバーを持つ花やハーブ類もボタニカルとして使用され、近年ではバラや前茶など新しいボタニカルも登場しています。
花やハーブ系のボタニカルには、次のような種類があります。
- ラベンダー
- タイム
- カモミール
- エルダーフラワー
- ブドウの花
- メドウスイート
- バラ
- 前茶(チャノキの葉)
ラベンダー
種類 | シソ科 |
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香り | 華やかで柔らかい香り、フローラル |
香りにリラックス効果のあるラベンダーは、アロマセラピーにも用いられる人気のハーブです。
サイレントプールといったフローラルな香りのジンに使用されており、華やかなハーブ香が特徴です。
タイム
種類 | シソ科 |
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香り | ほろ苦さ、清涼感のある、優しい香り |
タイムはさわやかで優しい香りをもたらスボタニカルで、ザ・ボタニストといったジンに使用されています。
いやし効果・鎮痛効果のあるハーブとして有名はハーブで、その独特の芳香は肉料理や魚介料理など、さまざまな料理にも幅広く使われます。
カモミール
種類 | キク科 |
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香り | リンゴに似た甘い香り |
リラックス効果のあるカモミールは、紅茶にして親しまされている有名なハーブです。
花の香りやリンゴのような甘い香りをもたらすカモミールは、ヘンドリックスやザ・ボタニスト、タンカレーNo.10などに使われています。
エルダーフラワー
種類 | レンプクソウ科 |
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香り | 華やかでフルーティな香り |
エルダーフラワーは、ヘンドリックスやサイレントプールに用いられているボタニカルで、夏らしいさわやかな香りとフルーティな香りが特徴です。
やや個性的な香りのため、使うのは少量であることが多いボタニカルです。
ブドウの花
種類 | ブドウ科 |
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香り | 甘いブドウの花の香り、 やさしく澄んだ香り |
ブドウの花をジンのボタニカルに使用すると、甘い花の香りがふわりと香るジンに仕上がります。
ブドウの花がボタニカルに用いられているジンの中では、スペイン産のアルケミストが有名ですね。
ボタニカルとして使用するだけでなく、ブドウの実をベーススピリッツとして用いているジンもあります。
メドウスイート
種類 | バラ科 |
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香り | 干し草、ハチミツ、野草の複雑な香り |
メドウスイートは白くてかわいらしい花を付ける植物で、その実はアスピリンの語源といわれています。
複雑な香りを持ち、干し草や野草のような軽やかな香りや蜂蜜といったさまざまな香りもたらすボタニカルで、ヘンドリックスなどに用いられています。
前茶(チャノキの葉)
種類 | ツバキ科 |
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香り | まろやかな香り、 後味にタンニンのビターな風味 |
日本のお茶である前茶は、ビーフィーター24などにボタニカルとして使用されています。
前茶はジンにまろやかな香りを付与するだけでなく、お茶特有のタンニンの苦味ももたらします。
【シトラス系】ジンのボタニカルの種類
シトラス系のボタニカルには、次のような種類があります。
オレンジ | コクや華やかさ、 フルーティーで甘い香り少しの苦味 |
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レモン | きりっとした苦味、 ジュニパーベリーの香りを引き立たせる |
ライム | レモンよりも清涼感の強いシトラスフレーバー |
グレープフルーツ | 軽やかなシトラスフレーバー、スパイシーさ |
ユズ | 独特の甘み、 さわやかなシトラスフレーバー |
シトラス系は柑橘系の総称で、ボタニカルとして使用するのは油分を含んだ皮の外側(ピール)です。
皮の外側とは、皮内部の白い部分よりも外側の部分で、香りの高い油分を含んでおり、ピールはカクテルやお菓子作りにもよく用いられています。
ユニークなボタニカルをもつジン
紹介してきた代表的なボタニカル以外に、ユニークなボタニカルをもつジンを紹介します。
ヘンドリックス【キュウリ/バラ】
ヘンドリックスの特徴といえば、キュウリとバラのエッセンスです。
使用されているバラはブルガリア産のダマスクローズで、エッセンスを凝縮させたオイルからは花の香りや甘みが加わります。
キュウリは独特の植物の香りをジンに付与し、ヘンドリックスの個性的なフレーバーをつくっています。
橘花ジン【大和橘/大和当帰】
奈良で製造されている橘花ジンのフラッグシップボトルには、3種のボタニカルしか使用されていません。
ジュニパーベリーの他に使われているのは、大和橘(やまとたちばな)と大和当帰(やまととうき)の2種類。
どちらも奈良固有のボタニカルで、橘花ジンの力強い柑橘の香りと爽やかさの源となっています。
サイレントプール レアシトラスジン【仏手柑/平戸文旦ほか】
サイレントプール レアシトラスジンは、希少な柑橘類のボタニカルが複数使用されています。
仏手柑(ブッシュカン)や平戸文旦(ヒラドブンタン)といったボタニカルが、ジンに爽やかな香りと奥行きのある味わいを付与しています。
最後に
ジンの個性は、ボタニカルの種類と組み合わせに大きく影響されます。
今回紹介したスパイス系、ハーブ系、シトラス系のボタニカルに加え、近年のジンメーカーは斬新なボタニカルの使用にも積極的です。
ボタニカルには作り手の想いやこだわりが詰まっており、ジンメーカーの個性が反映されているといえるでしょう。
作り手の思いが詰まったボタニカルに着目することで、ジンの新たな魅力に出合えるかもしれません。
ボタニカルが織りなす味わいを楽しみつつ、お気に入りのジンを見つけてみてください。